遺言書の作成
欧米では飼っていた犬や猫に遺産を与えるというような遺言を残す人がいるようですが、日本でも、遺言書に何を書こうが自由です。
しかしながら、「兄弟仲良く暮らすように。」というような遺言書を残しても、ほとんど法的な意味はありません。
「遺族がモメないように遺言書を残しましょう」という意見がありますが、遺言書とは、自分が所有している財産や負債を、誰にどれだけ与えるかを、法定のルールを曲げて決めてしまうことであり、一定の合理的な目的があれば別ですが、誰それがかわいいからとか、老後よくしてくれたからといった一時の感傷で行うと、かえって相続開始後にモメることになりかねません。
遺言書があるからといって、受贈者は必ず受け取る義務はなく、放棄することも可能です。相続人、受遺者が合意によって法定相続とすることも可能です。しかし、その場合、遺言があると残された遺族らの手続が煩雑になります。
また、気に入らないからという程度の理由では、遺言による相続廃除をすることは困難です。
ましてや一部の推定相続人らが結託して、他の相続人の廃除を目的に遺言を書かせようとするなどは、単に財産争いを早めに始めることに過ぎません。
あくまで私の個人的な考えですが、自分の死後、自分の残した遺産の処分は、自分の葬儀をどうするかと同じで、残された遺族が自由に決めればよいことだと思います。
そこでモメたらモメたで仕方ないことで、自分が死んだ後までも後世の者を自分の考えで拘束すべきではないと思います。
伝統ある家業を継承するとか、財産が散逸するのを防ぐなどの特別な目的があるという場合には、法人化するとか財団を作るなど、遺言よりも納得性のある手段があります。
遺言書の作成とは、自分の死後、自分の財産の処分方法を指定したことを書面にすることですから、自分の意思表示を誰かに筆記させることはできても、その内容を他人に頼んで決めてもらうものではありません。
自筆遺言であれば、本文は自筆で、署名と押印、日付がなければならないとか、秘密遺言であれば、封印後の体裁が必要とかの、遺言を法律上有効とするための要件はありますが、その内容が「法律的に問題がないかどうか」のチェックは大したことではありません。
今では、ネットで質問に答えていけば無料で遺言書が作成できるホームページがいくつもあるように、自分の財産を誰にどれだけ分け与えるかという遺言の意味さえ理解していれば、遺言書の文言は中学卒業程度の国語力があれば法律知識がない人が書いて大丈夫です。
自筆遺言の作成方法と自筆遺言書の法務局保管方法、公正証書遺言の作成手順など、多少、プロがアドバイスする部分はありますが、今は、法務省が出来の良いパンフレットを作っていますので、それを見ればわかります。
自分の財産がどこにどれだけあって、それを誰にどのように分け与えるのがよいのかということは、遺言する人しか決められないことで、遺留分侵害請求のことくらいわかっていれば、それだけの財産を築いた能力のある人であれば、当然自分でできるはずです。認知症などになってその能力が失われてしまうと、遺言はできません。
なお、相続開始に備えて財産(相続になれば遺産)がどこにどれくらいあるのかをあらかじめ調査することは、行政書士の仕事ですが、これも、基本的には本人から資料や情報を貰わなければ調べようがありません。逆に言えば資料があればそれで十分です。