「加害者が対応しない」とは

 車は「走る凶器」です。車を運転する場合、道路交通法その他の法令を遵守し、交通マナーを守り、他の車や歩行者などの安全が確保されるよう、十分な注意を払って運転する必要があります。この十分な注意を怠るから事故が発生し、事故を起こすと、刑事上の処罰、免許停止などの行政処分を受ける他、「損害賠償責任」という民事上の責任を負うことになります。
 車を走らせている者同士が衝突して事故が発生した場合、双方ともに上記の責任が生じるのですが、その程度には差がある場合があります。
 特に民事上の責任については責任の割合、いわゆる過失割合が付いて回ります。車同士のように危険度が同程度同志の場合は過失割合といいますが、車対歩行者のほうに、強弱関係が大きい時は、車側の過失がハッキリしている場合、歩行者にどれだけの落ち度があったかだけが問題であるので、歩行者側の「過失相殺率」と言います。
 世間一般の常識では、過失が大きい方が加害者、少ない方が被害者というイメージですが、自賠責保険では、過失割合の内容にかかわらず、ケガをした人を「被害者」、その相手方を「加害者」と呼びます。
 したがって、過失が9割の方が被害者、1割の方が加害者ということもあります。
 例えば、一時停止標識を無視して飛び出してきた車と衝突し、たまたまその車の運転手がケガしたとします。一般的に、一時停止無視は標識がある方の過失割合が8割、ない方の過失割合が2割、さらに標識がない方の道路が優先道路であれば1割(相手側が9割)になります。
 自分に1~2割しか過失がないのに「加害者」、相手は8~9割悪いくせに「被害者」と呼ばれると、納得いかないという人が多いのではないでしょうか。
 でも、自賠責保険では、8~9割の過失があってもケガをした方を「被害者」と呼びます。これは単なる符号であって、請求する側と請求される側を区別しているだけで、どちらが悪いという意味はありません。
 さて、本題の、「加害者が対応しない」場合についてですが、ケガをした人の損害が、治療費30万円と慰謝料20万円の合計50万円だった、そして過失割合が被害者9割、加害者1割だったとしますと、加害者が被害者に対して支払わなければならない法律上の義務のある金額は、50万円×1割=5万円ということになります。(裁判をすれば「5万円を支払え。その余の請求は棄却。」という判決になります。)
 ここで、先に出てきた、自賠責保険の被害者請求を行うと、被害者は50万円の損害から、自賠責保険の決まりである「重過失減額20%」を適用されますが、それでも50万円×0.8=40万円を受け取ることができるのです。
 そうなると、加害者は5万円支払って終わり、とするよりも、被害者が自分で被害者請求して40万円もらう方が治療費は全額回収できるし、慰謝料も半分になるとはいえ手元には残るものがあるということで、「加害者は対応しない」ということになるのです。
 但し、「加害者が5万円支払い、被害者は残りの請求を放棄する」という示談をしてしまうと、自賠責保険への請求はできません。