法定相続情報一覧図
法定相続情報証明制度は、法務省がホームページで説明しているように、もともとは不動産の相続手続をしやすくする目的で始められましたが、現在は金融機関や年金への手続にも活用できるとされています。
ある人が財産を残して死亡すると、民法に定められた相続人や遺言で指定された受遺者や受贈者がその財産を引き継ぎます。
戦前の旧民法の時代は家督相続制度であったので、戸主が死亡しなくても隠居によって家督相続することはありましたが、現在の民法では、相続は被相続人の死亡によって始まることになっています。(民法第882条)
わが国特有の制度ですが、日本人の出生や死亡の事実は戸籍に記載して管理することになっています。
この戸籍簿というファイルが曲者で、戸籍法という法律で、「戸籍は、市町村の区域内に本籍を定める一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに、これを編製する。」(戸籍法第6条)と定められており、諸外国のような個人単位になっていません。
旧戸籍法時代のように、「家制度」のため、戸主を頂点に、一族郎党全部を記載するということはなくなりましたが、戦前(厳密には、戸籍が現在の戸籍法に合わせて改正される前)に出生した方に関しては、家制度時代の戸除籍から探さなければならず、新法になってからの戸除籍に比べると手間がかかります。
両親や祖父母が亡くなった際に、役所の市民課窓口に行って、「相続手続に必要なのだが、〇〇の出生から死亡までの戸籍がほしい。」と申し出たことがある方もいらっしゃると思います。
役所の吏員は戸籍の見方を習っているので、「これが死亡時、これがその前、さらに前がありますが、△△の役所に行ってください。」といって、その役所で入手可能なものを出してくれますが、普段、戸籍を取り扱うことのない人、始めてみる人にとっては、数行の身分事項欄に記載された文章は、何が書いてあるのか、どう読むのか、分からないと思います。
戸籍簿とは、ファイルと考えると分かりやすいです。そして、ファイルのインデックス(ファイル名)が、戸籍の筆頭者+本籍地です。
あるXという人は、Aというインデックスのファイルで出生し、婚姻してBというインデックスのファイルに移動し、Bファイルが法律によって改製(作り直すこと)されてB‘というファイルになり、そこで死亡するというように所属するファイルが変遷していきます。
Xさんの相続人を確認するためには、A・B・B’という3つのファイルを引っ張り出し、その変遷に途切れがないかどうかをチェックする必要があります。
これらのファイル(戸除籍)を入手し、身分事項欄に記載された文章の意味を理解し、相続人を特定して一覧図を作成することは、ある程度、戸籍簿に関する知識を有し、経験のある人でないと困難です。
「わかる戸籍」のような解説本がいくつも出ていますが、全く知識のない素人が買ってきて一読した程度で相続情報一覧図を作成するのは、余程簡単なものでない限り、難しいでしょう。
弁護士とて、司法試験には戸籍法などは出てきませんし、ましてや戸籍謄本の読み方実務などは勉強の対象外でしょう。士業であっても、その方面に詳しく、経験のある人でないと難しいのが現実です。
特に旧法時代の戸籍簿は、元々はB4判の大きさの紙に手書き(中には毛筆)で記入したものをスキャナーで読み込んでデジタル化したデータをもとに、A4判に印刷したものが交付され、また、枚数が多いという特徴があります。昔の戸籍吏の中には達筆な方もいて、虫眼鏡を片手に読み解いていくには結構時間がかかるため、士業としてはそれに見合う手数料をいただきたいということになります。
しかし、法務局が相続情報一覧図の保管と交付を無料でやってくれるにも関わらず、その作成に何十万円もの報酬を取るのは暴利行為でしょう。制度の利用促進を妨げるだけです。