自賠責保険請求手続きを「士業」に委任することのメリット・デメリット
紛争性のある法律事務は弁護士法によって弁護士しかできないことになっています。また、裁判所に裁判を出す際も、司法書士(簡易裁判所のみ、訴訟額の制限があります。)か、弁護士でなければ代理人になることができません。
したがって、相手に対して裁判を起こすことを前提として損害賠償請求を行うときの代理人には、通常は弁護士に依頼することになります。
大雑把に言って、被害者に全く過失がない事案で、弁護士が裁判に出す際の請求額を100とすると、裁判所からで出る金額が80、任意保険会社が提示する金額が60です。結局、希望額の100が取れることはなく、判決にしろ和解にしろ、保険会社が提示している60は争いがないですから、結果が80になったとしても、弁護士を入れて争った利益は20しかありません。費用がその2割の4だけならまだしも、着手金やら成功報酬という名目で獲得金額80の2割程度、16をとられると、弁護士を入れて時間をかけたところで、手間は多少省けますが、あまり経済的なメリットはないということになります。裁判までやって取れた総額の5%なんて誤差の範囲内です。被害者に過失がある事案においてはなおさら経済的利益は少なくなります。
一方、自賠責保険の請求手続きは、傷害、後遺障害、死亡、それらの異議申立にしても、ほとんどの場合、必要な書類・資料を揃えて保険会社に提出するだけの作業ですから、法律的な論点や争点はありません。
士業がそのような手続の代行に、獲得金額の何割という報酬を請求することに合理性があるのかどうか、疑問があると思います。
交通事故による損害賠償請求事件のほとんどは、結局、いくら賠償金を取るかという金銭給付の争いであり、それも人身事故の場合、自賠責保険から支払われる金額については、キチンと手続すれば、いわば自動的に入ってくる金額で、争いが生じる余地はありません。
したがって、被害者に生じた総損害額がどのくらいになるのか、それに過失相殺や損益相殺すると、最終的な賠償額はいくらになるのかを計算してみて、裁判までするメリットがあれば弁護士に依頼する、そうでなければ自分でサッサと自賠責保険に請求する、難しければ低廉な金額で請け負ってくれる行政書士に依頼するか、さもなくば相手の任意保険会社に任せるという方法がよいでしょう。
なお、対物損害で交渉する場合は、対物賠償保険には自賠責保険のような制度がないため、弁護士に依頼するしかありません。